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連載 吉井子の冒険 (1)

作:しみずせい (1)

 

「まさくん、旅にでようか」と起きたての寝ぐせのついた頭を書きながら吉井子はひとりごとをいった。吉井子はベッドから起きあがり、背中をちょっと丸めながら歩いて台所へ行き、コーヒー豆をいつものように使い古した手回しミルにいれた。

「ああ、いい匂い。」と政孝は言った。ソファに寝そべりながら、古い写真集を見ていた。「旅いいよ、吉井子」

「聞いてたの?」と吉井子は言った。吉井子は手際よく、少し荒く挽かれたコーヒー豆をいつものフレンチプレスに入れた。熱湯を線の少し上まで注ぎ十分に蒸らしてから、少し薄めのコービーをお気に入りの白いマグカップにいれた。

「いや、いいの。ひとりごとだから。仕事行かなくちゃ。」

「ほら、昨日の夜のテレビでやっていたやつ、どこだっけ。長野だっけ。行きたいって話したじゃん。俺、行きたいよ、吉井子。」

政孝は、頭だけ吉井子の方を見ながら言った。政孝は、吉井子のことが好きだった。「吉井子」と会話の最後につけるのはいつもの癖だったが、彼はそれを結構気に入っていた。吉井子の後ろ髪を見ながら、政孝は仕事を休まなければならないなと考えていた。

 

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