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連載 吉井子の冒険 (6)

作:しみずせい (6)

 

 二人は品川駅の改札を出てすぐに左に曲がって、高輪口へ向かった。政孝は、美術館に向かう道を歩きながら、吉井子と初めて会った時のことを考えていた。吉井子はいつも政孝の半歩先を歩いた。

「なんで付き合うようになったのだろう。」

 政孝の答えはいつも同じだった。吉井子の気ままなところ。政孝は何でもきちっとする方だったし、我を通すことあまりせずに周りにも結構気を使って生きてきた。しかし吉井子は、自分の道を進むときは周りが見えなくなるタイプだった。そうした行動が、政孝にはひどく危なっかしく見えた。それが単に周りの人たちを怒らしてしまうとかそういうことではなく、あるひとつのことへの突進の仕方が、吉井子をいつか破滅に導きそうな予感がした。政孝にとって、破滅のイメージは全く具体的ではなかったが、それはどうでも良かった。大事なのはその破滅が起これば、もう二度と吉井子には会えないような気がしたのだ。

 緩くカーブする国道に沿って歩くと大きな教会が見えて、隣に隣接する保育園から子どもたちの声が聞こえてきた。二ブロックほど先を左に曲がると普通からはかなり大きめの住宅が並ぶ場所に出た。その路地を奥に入っていくと、白の美術館の門が見えた。

 

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