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連載 吉井子の冒険 (10)

作:しみずせい (10)

 

 政孝は、白の美術館のカフェに吉井子と初めて来たときのことを思い出していた。昨年の9月9日のこと、吉井子から急に話しかけられた政孝は、顔を見ないで話し続ける吉井子をしばらく眺めてから、「あの、すみません。別の方と勘違いされていませんか?」と、やさしく伝えた。

「もちろん知っているわ、でも私ね、聞いてほしいの。だって他には一人で来ている人はいないし、あなたやさしそうですもの。」と吉井子は政孝の顔を見ずに、クレーの黒と白の色が重なり合う作品を凝視しながら言った。

「いや、そうであれば、それで、いいですけど」と政孝は自分が想定していたのとは違った答えに焦りを覚えながら、吉井子の姿を見ながら冷静に今の状況を考えていた。

「あなた、この美術館初めて来たの?」と吉井子は聞いた。

「初めてですよ、作家の個展を開くにもちょうど良い大きさですね。」

「地下には行ったの?」

「えっ、いや、地下ってあるんですか。」と政孝は答えたが、館内マップを見ると地下に展示室はないし、そもそも地下空間どころか地下へ通じる階段すら見当たらなかった。

 

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